役員報酬・役員給与の決め方
役員報酬(給与)の意味
会社が支払う給与のうち、従業員に対して支払う給料は雇用契約にもとづき、労働力の対価として支払いうため、当然に経費として扱われますが、役員に対して支払われる給与(報酬)にはさまざまな意味があるため、その内部構成と給与の意味合いについて把握しておくことが必要です。
役員に支払う給与は?
会社業務全体の管理・監督・経営に対しての報酬であり、これまで役員報酬・役員賞与・役員退職金と呼ばれていたものすべてが「役員給与」になります。
※平成18年以前は、役員報酬は業務執行の対価、役員賞与は利益処分、退職金は業務執行報酬の後払いと利益処分の両方の性質を持っていましたが、新会社法施行によって、このような考え方がなくなり、法人税法でも、報酬・賞与・退職金を包括して「役員給与」とすることになりました。そして、損金算入できる条件・範囲が決められました。
役員報酬(給与)額の決め方と手続
役員報酬額については、法的にも正しい手続を経て決める必要があります。以下の2通りありますので、会社ごとに合った方法で手続・決定しましょう。具体的な金額については、経営計画をよく立てた上で決定し、年間を通して同額を支払えるようにしたいものです。
(役員報酬(給与)は、定期同額給与や事前確定届出給与、利益連動給与など、ある一定の規則どおりに支払をしなければ、費用として認められませんので注意が必要です)
定款で定める(額面変更が面倒くさい)
定款に具体的金額を定める
この場合、金額改定したいときに、定款変更の手続きが必要になります。定款変更手続きは株主総会の特別決議(総議決権過半数以上の株主の出席と出席議決権3分の2以上の決議)が必要です。
株主総会の決議で決める(額面変更が比較的簡単)
定款で、取締役員の報酬の項目を「取締役に対する報酬は、株主総会の決議により定める」とし、株主総会で取締役報酬の総額の上限と決定方法を決議します。そして、取締役会で個々の役員の報酬額を決定します。通常はこちらの手続方法を採用します。
役員報酬(給与)の損金算入・損金不算入
損金算入・不算入とは?
会計処理では収益・費用と表現
収益・・実際に入金された金額から実際に支出した金額を引いたもの
費用・・実際に支出した金額
税務処理では、益金・損金と表現
収益と益金、費用と損金はほとんど同じ意味なのですが、税金を計算するときには扱いが異なる部分があります。その調整をすることを税務調整といいます。 税金を支払うにあたっては、この税務処理上の損金にあたる出費として認められるか否かが問題となります。
損金算入とは
法人税額を計算するときに、基礎となる課税標準(額)を求めるときにもマイナスできる。 「実際に支出した金額を法人税算出時にも差し引くことができる費用」ということです。
損金不算入とは
課税標準を求めるときにプラスしなければならない。 「実際に費用を使ったつもりでも、法人税法上、経費と認められないため、法人税算出時には使ってないことにしなければならない、税金がかかってしまう」ものです。
損金算入される役員報酬(給与)
損金算入される役員給与には以下のものがあります。
- 退職時の給与
- ストックオプション
- 使用人兼務役員の使用人部分(他の使用人と同じ時期に支給する)
- 定期同額給与(支給時期と支給額が、期を通じて一定である給与)
- 事前確定届出給与(支給時期・支給額を納税地の税務署長に届出した上で支給する給与)
届出は「役員給与決定の株主総会から1ヶ月」「会計期間4ヶ月」が経過する日のうちの早いほう - 利益連動給与(同族会社でない法人が支払う利益に連動する給与のうち条件を満たすもの)
損金不算入される役員報酬(給与)
以下のような役員給与は、税務上損金扱いすることができず、損金不算入となります。
- 隠蔽・仮装経理部分
- 損金算入される役員給与のうち、過大部分
・実質基準での過大判定は、以下のことを勘案して、相当であると認められる金額を超えた部分になります
- 役員の職務内容
- 法人の収益
- 使用人に対する給料の支給状況
- 類似法人の役員給与支給状況(『社長・役員の報酬・賞与・退職金 最新支給データと税務Q&A』日本実業出版社などを参考にしてください)
・形式基準での過大判定は、定款規定、株主総会決議で決められている限度額を超えた部分になります。
損金不算入額の決定
実質基準と形式基準を比較して、多いほうの額が「不相当に過大な部分の金額」として損金不算入になります。
役員の定期同額給与とは?
法人の役員報酬(役員給与)として支払う方法のひとつです。定期同額給与に該当する場合には、役員給与は、その全額を損金算入することができます。但し、税務署が不当に高額(過大)であると判断した場合は、その不当部分については、損金不算入になります。
定期同額給与の要件
以下の4つのケースのうち、どれかに該当すれば、定期同額給与として認められます。
ケース1
支給時期が1ヶ月以下の一定期間ごとに支給され、支給額が同じである
ケース2
支給額の改定(決議)が、会計期間開始後の日から3ヶ月を経過する日までに行われるとき、改定前の各支給時期における支給額が同額であれば、その改定前の給与、または、改定以後の各支給時期における支給額が同額である場合には、その改定以後の給与が定期同額給与に該当。
給与額改定時のポイント
- 決算日以降、定時株主総会で役員報酬総額を決定する
- 取締役会or代表取締役が個々の役員の報酬額を決定する
- 決定事項は必ず議事録に残す
※決算日より3ヶ月以内にやらなければなりません。また、定款で報酬が決まっている場合には、定款変更手続きもこの期間内に済ます必要があります。
ケース3
経営の著しい悪化によって支給額を改定するとき、改定前の各支給時期における支給額が同額であればその改定前の給与、または、改定以後の各支給時期における支給額が同額である場合には、その改定以後の給与が定期同額給与に該当。
ケース4
- 毎月供与される一定額の経済利益
- 社宅などの家賃
- 金銭貸付利息
- 保険料
金銭で支給されていなくても、経済利益は給与として課税対象になりますが、このように一定額なものであれば、定期同額給与に含められます。
現物支給とみなされてしまうのは、こんな場合
- 無償の社宅や、家賃相場に比べ低額家賃の社宅の場合
一般的家賃-実際に徴収している家賃額=現物支給額 - 無利息貸付、低金利融資の場合
- 会社が借り入れて役員に貸したとき
借入利息-実際に徴収している利息=現物給与額 - 会社の自己資金から役員に貸したとき
(前年11月末日の公定歩合+4%)の利息-実際に徴収している利息=現物給与
但し、会社の定めた金利が借入金の平均調達金利など合理的数値の場合は課税されない
- 会社が借り入れて役員に貸したとき
- 受取人が役員や役員の家族などになっている保険の保険料全額=現物給与額
事前確定届出給与とは?
事前確定届出給与とは?利用時の注意点
所定の時期に確定額を支給する旨を定め、それにもとづいて支給する給与のことで、役員のボーナスなどを事前確定届出給与とすることができます。全額損金算入することができる給与ですが、税務署が不当に高額(過大)であると判断した場合は、たとえ届出をしたとしても、その部分については損金算入されなくなります。
事前確定届出給与を利用する要件
- 株主総会で支給時期・支給額を決め
- 納税地の税務署長にその内容を届出する必要があり
- 役員が職務執行すること
また、現物資産の支給に利用できるか?といいますと、現物資産の価額は確定したものではないので、対象外です。
事前確定届出給与利用時の注意点
事前確定届出制度は、非常にお得に感じられるかもしれませんが、届出をした支給額と実際の支給額が違ってしまったら届出の意味がなくなります。実際に支給した額が、届出額より多くても少なくても、差額ではなく、その支給額全額が損金不算入の扱いになります。
ですから、 経営計画(利益・資金計画)をしっかりと立て、計画を阻害しないような支給額・時期を決めることが大切です。
内容としては、利益見通しを立てるため、売上・仕入れ・経費・人件費・設備投資・借入を具体的数値で予測してみることが肝要です。また、キャッシュフローをつかんでおくことはとても重要です。利益が上がっても、キャッシュがなくなれば会社の存続は危ぶまれます。どの時期にどのくらいのキャッシュが必要になるのか想定し、キャッシュが確実に回るように給与支給額や支給時期を計画しましょう
事前確定届出期日と届出内容
届出はいつまでに?
以下のうち、早いほうが届出期限になります
- 役員給与決議の株主総会等の日から1ヶ月を経過する日
- 職務執行を開始する日の属する会計期間開始の日から4ヶ月を経過する日
※「職務執行を開始する日」とは?
一般的には役員選任や役員給与決定をする「定時株主総会の日」
例外として、「定時株主総会の翌月初and総会日に近接している日」なら認められます
届出内容は?
- 事前確定届出給与に関する届出書
- 支給時期と支給金額を定めた日(株主総会の日など)
- 定めをした機関(株主総会・取締役会など)
- 支給対象者の職務の執行を開始する日
- 給与を定期同額給与による支給としない理由・支給時期を①の日にした理由
- その他参考となるべき事項として、所定の時期に確定額を支給する旨を定めたその内容を記載する。(株主総会議事録の写しを添付してもOK)
- 事前確定届出給与等の状況(付表1(役員1名につき、1枚))
- 支給対象者の氏名・役職
- 支給時期と支給金額直前の会計期間にすでに支払った支給額当該事業年度の会計期間に支払う支給額翌会計期間の職務執行開始日までに支払う支給額
- 支給対象者の職務の執行を開始する日
- その会計期に、事前確定届出給与以外の給与を支給する場合にはその事前確定届出給与以外の給与(定期同額給与など)の支給時期と金額(但し、退職給与や使用人兼務役員の使用人部分は含まない)
- 事前確定届出給与対象者以外の役員に対する給与の状況(付表2)
- その会計期間におけるほかの役員に対する給与の支給時期と金額
利益連動給与とは?
利益連動給与の条件
利益連動給与とは、利益に連動して役員に対して支払う、損金算入できる給与のことです。
以前は、定額でない役員給与は賞与とみなされ、全額損金不算入として取り扱われていたわけですから、利益変動給与とするためには、非常に厳しい条件が3つあります
条件1.同族会社ではない法人であること
ホールディング形態のような「非同族の同族会社」もNGです
条件2.業務執行役員に対して支給する給与であること
業務執行役員とは?
- 代表取締役
- 代表取締役以外の取締役のうち、業務を執行すると取締役会によって選定された取締役
- 執行役
- これらに準ずる役員
以下の人たちは、業務執行役員として認められません。
監査役、委員会設置会社において業務を執行できない取締役、業務を執行しない取締役・社外取締役、、、など
条件3.支給額上限、算定方法を定める手続き、算定方法開示などについて一定の要件を満たす利益連動給与であること
- 利益連動給与の算定方法
利益に関する指標の客観性・上限額の設定が必要で、それは、すべての業務執行役員に適用されます。但し、役職ごとに比重をつけることは認められています。 - 利益に関する指標の客観性
営業利益、経常利益、税引き前当期純利益、当期純利益、連結営業利益、連結経常利益、連結当期純利益など、客観的に判断できる利益を指標とします。 - 上限額の設定
具体的数値、5000万円、1億円、など・・
例: 利益連動給与は、経常利益 の 0.5% とする。但し、1億円を上限とする。
(代表取締役が40%、専務が35%、常務が25%)
↑キッチリ3等分しなくても、このように役職によって差があってもよい
利益連動給与の支払い時期
利益に関する指標が確定(定時株主総会)してから1ヶ月以内に支払いをして、損金経理をしましょう。
利益連動給与額算定方法を定める手続
会計期間開始後3ヶ月経過日までに、以下の5つのいづれかで決議・決定しなければなりません
- 報酬委員会が決定すること
<報酬委員会とは?>
会社法で認められた委員会設置会社を会社の機関として採用したときに、取締役会の中に設置しないといけない委員会のひとつであり、取締役と執行役について個人別報酬額を決定します。
(注)この報酬委員会の委員の中に、業務執行役員や、その親族・内縁など特殊関係のある人物がいる場合は、利益連動給与の損金算入は認められません - 株主総会の決議によって決定すること
- 報酬諮問委員会の審議などを経た取締役会決議によること
< 報酬諮問委員会とは?>
取締役会の諮問に応じ、業務執行役員給与について意見を述べる3人以上の外部の委員から構成されます。
(注)この報酬諮問委員会の委員の中に、業務執行役員や、その親族・内縁など特殊関係のある人物がいる場合は、利益連動給与の損金算入は認められません - 監査役会設置会社である場合の取締役会決議によること
- その他、上記に準ずる手続きを経ること
利益連動給与額算定方法の開示方法
決定・決議後、遅滞なく、業務執行役員それぞれについて、
- 利益連動給与の算定の基礎となる利益に関する指標
- 限度としている確定額
- 客観的な算定方法の内容
の3つを、
- 有価証券券報告書
- 証券取引法に規定する半期報告書
- 証券取引法に規定する臨時報告書
- 証券取引法に規定する証券取引所の業務規定
などの開示資料で開示することが必要になります。(役員の氏名と具体的金額を開示する必要はなく、肩書き別に明示するだけでよいです )