特殊支配同族会社の役員報酬(給与)損金不算入制度
- 役員給与の損金不算入制度とは?
- 役員報酬額から損金不算入額を出す計算方法
- 特殊な場合の計算
- 損金不算入制度の適用除外要件
- 特殊支配同族会社の役員報酬(給与)損金不算入制度の対策
- 中小企業支援策として特殊支配同族会社の役員報酬(給与)損金不算入制度の廃止
役員給与の損金不算入制度とは?
特殊支配同族会社の業務主宰役員給与のうち、損金扱いしない(課税される)部分についての制度です。
この制度、簡単・具体的には、こんなふう・・・
法人 | 社長(業務主宰役員)個人 |
売上 7千万円 | 給与収入 2千万円 |
経費 4千万円 | 給与所得控除 270万円 |
粗利 3千万円 | 給与所得 1730万円 |
役員給与 2千万円 | |
最終利益 1千万円 | |
+給与所得控除分 270万円 |
特殊支配同族会社の役員給与損金不算入というのは、具体的に、上の例でいうところの赤太字が課税対象として増えることです。社長(業務主宰役員)が受ける給与所得控除分相当は法人の損金扱いにならないので、その金額が課税部分に加算されて法人税が課税されるようになる、ということです。
役員報酬(給与)額から損金不算入額を出す計算方法
特殊支配同族会社の業務主宰役員給与の損金不算入額は、その給与額(年額)によって決まります。(届出をしない賞与や不相当な役員給与として、元々損金不算入である部分については含みません)
業務主宰役員給与額 | 損金不算入額(12ヶ月分) |
65万円以下 | 業務主宰役員給与額の全額 |
65万円超180万円以下 | 業務主宰役員給与額×40% 但し、65万円未満の場合は65万円 |
180万円超360万円以下 | 業務主宰役員給与額×30%+18万円 |
360万円超360万円以下 | 業務主宰役員給与額×20%+54万円 |
660万円超360万円以下 | 業務主宰役員給与額×10%+120万円 |
1000万円超 | 業務主宰役員給与額×5%+170万円 |
特殊な場合の計算
事業年度途中で業務主宰役員がA氏からB氏へ交代する場合
それぞれの損金不算入相当額を計算しておきます
①業務主宰役員をしていた期間と給与額から年間業務主宰役員給与額を算出
②上の表と①から、12ヶ月分の損金不算入額を計算する。
③損金不算入相当額=②×(業務主宰役員期間(月)/12ヶ月)
- A氏とB氏が同一グループ(親類など)の場合
A氏の③損金不算入相当額と、B氏の③損金不算入相当額を合計する - A氏とB氏が異なるグループ(まったくの他人)の場合
事業年度終了時の業務主宰役員を基準に判定されますので、B氏の③損金不算入相当額のみが該当します
業務主宰役員が他の会社でも業務主宰役員をしている場合
- 計算方法その1
それぞれの会社ごとに、給与支給額から損金不算入額を計算する - 計算方法その2
両方の会社から支給されている給与を合算し、その合算金額に対する損金不算入額を計算し、それぞれの会社からの支給額割合によって損金不算入額を按分する。
例:C社から500万円、D社から800万円給与支給を受ける場合、どちらの計算方法を採用したほうが税額がすくなくてすむか?
- その1
C社 500万円×20%+54万円=154万円
D社 800万円×10%+120万円=200万円
合計 354万円 - その2
(500万円+800万円)×5%+170万円=235万円
C社 235万円×500/(500+800)=903846円
D社 235万円×800/(500+800)=1446154円
その1より、その2のほうが、損金不算入額の合計は少なくてすみます。ただ、こちらの方法をとる場合は、相手方の会社の名称・納税地・発行済み株式総数・株主名と出資金額・常務に従事する役員の氏名と役職名・業務主宰役員と業務主宰役員関連者の氏名と関係・相手方の会社が特殊支配同族会社に該当する疎明書類を提出しなければならなくなりますので、注意が必要です。
損金不算入制度の適用除外要件
特殊支配同族会社の中でも、ある条件を満たすことによって、この損金不算入制度から逃れることができます。その条件は、次の2つのうち、いずれかに該当する事業年度であることです。
- 要件1 基準所得金額が年1600万円以下である事業年度
- 要件2 基準所得金額が年1600万円超3000万円以下であり、かつ、その基準所得金額に占める業務主宰役員給与額の割合が50%以下である事業年度
基準所得金額とは?
簡単に言えば、『法人税法上の所得金額+業務主宰役員給与』の過去3年間の平均額のことです。法人税申告書の別表四の一番下に書かれた金額が『法人税法上の所得金額』になります。『法人税法上の所得金額+業務主宰役員給与』は調整所得金額と呼ばれます。
>>特殊支配同族会社とは?業務主宰役員とは?
基準所得金額を求めるために必要な基準期間
基準期間とは、その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の月数をいいます。
例えば・・
- 8期 9期 10期
11期からみたら8期~10期 36ヶ月 - 8期 9期(決算期変更(3月⇒6月)) 10期
11期からみたら8~10期の27ヶ月 - 1期 2期からみたら1期の12ヶ月
- 8期 9期(特殊支配同族に該当しない期) 10期
11期からみたら10期の12ヶ月 - 8期 9期 10期(特殊支配同族に該当しない期)
11期は11期で判定
基準所得の計算
1.基準期間の所得金額がすべてプラスで、繰り越された欠損金もない場合
(基準期間所得金額+業務主宰役員給与額)÷ 基準期間月数 ×12
2.繰り越された欠損金がある場合
(基準期間所得金額+業務主宰役員給与額 - 過年度欠損金額の調整控除額)÷基準期間月数 ×12
※過年度欠損金額の調整控除額とは、基準期間より前の事業年度で出た欠損金(最長7年前まで)の調整額ことです。欠損金全額がその対象となるわけではなく、その期間に特殊支配同族会社に該当しない事業年度以前と以後で調整が異なります。
特殊支配同族会社の役員報酬(給与)損金不算入制度の対策
役員給与不算入を回避するには・・・? 安易な回避は、将来的にトラブルや損失を招くのでオススメではありません。 ご相談時にいただく安易に考えられる方法と、そのデメリットをあげておきます
1.持ち株割合を変えよう
同じグループの人に株を譲渡しても、何の意味もありませんから、全くの他人に議決権のある株式を譲渡することになります。11%を他人が持つわけですから、小さな会社で、自分の思い通りにやっていきたい社長さんの場合、将来的に経営上トラブルを起こす可能性が高くなり、この損金負算入の対策のためだけのことで、持ち株割合を変えることはオススメできません
(注)株が分散されることを好まない場合は、持株会を作って株式の社外流出を防ぐこともできます。定款に株式譲渡制限が規定されている場合でも、相続や退職時にまで所有者を制限できるわけではありませんから、内規を作成し、その中で退職時の株式の処理について規定しましょう。また、相続時には会社が相続人から買い取り請求ができることを定款に定めましょう。
2.常務に従事する役員をふやすか
業務主宰役員と全く関係のない人を役員に任命することになります。当然に、この人は名前だけでなく、日常的に経営的な業務を行っていなければなりません。ひとりでなんでも決めたい社長さんにとっては、会社の意思決定が遅くなったり、意見の食い違いなどで面倒なことが起きる場合もあります。また、顧問税理士などを会計参与に就任させたとしても、会計参与は経営活動を行うわけではないので、常務に従事する役員を増やしたことにはなりません。
3.役員給与を引き下げてみる
業務主宰役員の給与引き下げをしてもよいですが、その代わりに同じグループの人間の役員給与が増額されている場合には、その増額分の理由を正当に証明できない限り、否認される可能性があります。
例えば、代表取締役の給与を下げて、奥さんの給与を上げた場合などは、否認される可能性が高いということです。
中小企業支援策として役員給与損金不算入制度を廃止
ひとり社長に対してのみ増税する、「特殊支配同族会社役員給与損金不算入制度」は、中小企業を支援するために制定された「新会社法」と矛盾します。
法人税に課税し、さらに、個人が受け取る役員報酬に対しても課税をするという、いわば、二重課税ではないか?ということが問題となっていました。
また、役員報酬として、個人に支払ってしまっているため、会社に担税力がありません。
「特殊支配同族会社」の業務主宰役員の給与のうち、「給与所得控除額相当額」は、損金の額に算入しない。という、基準所得金額が1600万円以上の役員報酬に対して、損金として扱うことができず、課税されていた、この制度が廃止になりました。