情報開示問題判例
1.「指導要録」の開示
東京地裁(平成6年1月31日判決)・東京高裁(平成6年10月13日判決)
この判決は、自己の小学校在籍当時の「指導要録」の開示を求めた事件に関するものです。
- 指導要録には、単なる計数的な成績評価にとどまらない全体的な評価、児童の人物評価といいうるものが記載されているので、これを公開すると、場合によれば児童が自尊心を傷つけられ、意欲や向上心を失い、教師や学校に対する不信感を抱いてその後の指導に支障を来すおそれがあること
- 指導要録を見た保護者や児童がその評価に対して反発・誤解をするなどして、教師や学校との信頼感を損なう場合などがあり、教師がそのような弊害を慮って指導要録にありのままの掲載をしなくなり、指導要録が形骸化し、児童の指導教育のための信頼できる資料とならなくなるおそれがあること
- 指導要録に記載される事実は、これを保護者・児童に開示したからといって正確になるようなものではないし、指導要録に記載される評価は、教師が専門的知識・訓練等に基づいて行うもので、保護者や児童との議論に基づいて行うというようなものではないこと
などから、教育委員会の行った非開示処分を是認する判断をしています。
2.「調査書」の開示
大阪地裁(平成6年12月20日判決)・大阪高裁(平成8年9月27日判決)
この判決は、中学校3年生が公立高校入学願書出願前に自己の「調査書」の開示を求めた事件に関するものですが、裁判所は、損害賠償問題の中で、
- 調査書の「教科の学習記録欄」の10段階評定は、学内委員会での検討等を経て行われるもので、保護者・生徒に開示しても入学選抜資料としての公正さが失われるおそれはないことや、これを見た生徒が自尊心を害することがないとはないとしても、自ら開示を望むものに見せないとする理由はないこと、その評定は進路指導の際に生徒に知らされてきたことなどから、開示すべきである
- 調査書の中の「身体の記録」についても、視力・聴力等の客観的検査結果が記載されているだけなので、開示しても問題はない
- しかし、調査書の中の「総合所見」という、教師が記述式で生徒の評価を記載する欄については、これを生徒に開示すると、受け取り方によっては生とが教師への不信感を抱き、教師と生徒の信頼関係を損なう事態も起きないとはいえず、教師がこのような弊害を恐れて、必要な事項の記入を抑制し、記載が形骸化して入学選抜資料としての公正さを減殺するおそれがあるので、この「総合所見」欄については、非開示処分をすることでよいと判断しています。
3.「所見」欄の開示
神戸地裁(平成10年3月4日判決)
この判決は、自己の小中学校在籍当時の「指導要録」と「調査書」の開示を求めた事件に対するものです。
- 指導要録や調査書の中の、客観的・一義的な数値・事実が記載されている「教科の学習の記録」の評定や、「出欠記録」等の欄については、開示すべきである
しかし
- 教師が主観的評価に基づいて文章で記載した部分(「所見」欄)については、これを開示すると、場合によってはそれを見た生徒が自尊心を傷つけられ、意欲や向上心を失い、教師等に対する不信感を抱いて、その後の指導に支障を来すおそれがあること
- 生徒や保護者が教師の評価に対して反発・誤解等をして、教師との信頼関係を損なう場合があること
- このような誤解や反発によるトラブルを回避しようとして、教師がありのままを記載することができなくなり、指導要録や調査書の記載が形骸化するおそれがあること
などから、「所見」欄については、非開示処分をすることでよいと判断しました。
大阪高裁(平成11年11月25日判決・判例3の控訴審判決)
地裁判決(上記判例)で「所見」欄については非開示処分とされましたが、控訴審判決では、教師が主観的評価に基づいて文書で記載した部分の「所見」欄についても、全て開示すべきであるとの判断を示しました。
- 指導要録や調査書に記載される事柄は、日頃の指導に置いて生徒本人や保護者に伝えられて、指導が施されていなければならないものである
- 日頃の指導もないままに、生徒のマイナス面などが指導要録や調査書(の所見欄)に記載されるとすれば、それ自体が問題で、これをかいじすることによって、生徒と教師の信頼関係が破壊されるなどというのはおかしい
- 開示によって生じかねないトラブルは、適切な表現を心がけることや、日頃の生徒等との信頼関係の構築により避けることが可能で、これに対処するのも教師の職責ということができる
- 指導要録や調査書を全面開示している地方公共団体において、とくに問題が生じているとも認められない
などが理由です。