債務不履とは 債務者が、故意(わざと)または過失(注意を払わなかったこと)による何かしらの事由によって、債務の本旨に従った履行をしないことを「債務不履行」と言います。 例えば、
- 代金の支払いや商品やサービスの納品が「まったくされなかった」
- 「期限までにはなされなかったけれども、遅れて行われた」
- 「商品は買主の手に届いたが、見本とはまったく異なるものだった」
- 「届いた商品が不良品・欠陥品だった」
などで、この場合、売主である債務者が自身の債務(役務も含む)を履行しなかった(=債務不履行)ことになります
Contents
債務不履行3つのタイプ
債務の不履行は、以下の3つに分類されます。
「履行遅滞」・・・履行の時期が遅れてしまった
「履行不能」・・・履行することができなくなった
「不完全履行」・・・履行はしたが十分でなかった
履行遅滞と不完全履行においては、まだ履行の余地のある場合
裁判や執行によって債務そのものの履行の強制もできるし契約解除もできます。また、債権者は同時に損害賠償の請求ができます。
履行不能、または不完全履行で履行の余地がない場合
契約解除・損害賠償請求ができます。
履行期到来前の債務者による不履行意思明示
履行期到来前に、債務者が「ムリ!もうできない!たぶん不可能」などと、債務の履行をしない意思を明示してきた場合、債務不履行の3分類のどれにも該当しません。 過去からの慣例としては、債務不履行とは認められず、債権者は履行期の到来がくるまで、何もできないこととなります。 しかし、旧民法では履行拒絶について言及されていましたし、英米法やドイツ法などを参考に、履行期前の履行拒絶や不履行を債務不履行として認める学説が多くなってきました。
履行遅滞とは
履行遅滞の要件
- 履行期に履行することが可能であること
- 履行期を過ぎても履行しないこと
- 債務者に帰責事由が認められること
帰責事由とは、故意・過失または「信義則、これと同視すべき事由」 のことです。立証責任は債務者にあります。 - 違法性が認められること
債務者に同時履行の抗弁権(お互いが履行しなければならない債務を持っていて相手方が履行しないときは自分も履行しなくてよい権利)や留置権がある場合には違法な遅滞ではありません。
履行遅滞が成立する時期と消滅時効起算点
- 確定期限があるときは、期限の到来したときから(民法412条1項)
消滅時効の起算点は期限到来の時 - 不確定期限があるときは、期限の到来を知ったときから(民法412条2項)
消滅時効の起算点は期限到来の時 - 期限がないときは、履行の請求を受けたときから(民法412条3項)
消滅時効の起算点は債権成立の時
履行遅滞による効果
履行遅滞に陥ったとき、債権者がとれる自身の救済の方法としては、以下の3つが法的に考えられます。
- 強制履行
履行請求を、裁判などを利用して、強制執行・差し押さえ・競売などして強制的に履行させることです。
>>強制履行について - 損害賠償
損害賠償の内容は遅延賠償(遅れたことによる損害の賠償)と填補賠償(本来の給付に代わる価額の賠償)である。
>>損害賠償請求の要件・時効 >>損害賠償請求の範囲 - 契約の解除
相当の期間を定めて催告することが必要(541条1項) ですが、契約を解除することができます。また、契約解除については無条件解除なのか違約金が発生するのかななど問題が生じることがあります。
>>契約の解除について
履行不能とは
履行不能の要件
- 債務成立後に債務の履行が客観的に不可能となること
「不可能」とは物理的に履行が不可能になった場合だけでなく、事実上不可能になった場合も含まれます。 - 債務者に帰責事由が認められること
帰責事由とは、故意・過失または「信義則、これと同視すべき事由」 のことです。 - 違法性が認められること
緊急避難(民法720条2項)によって履行不能となった場合などは、違法性が認められません。
履行不能が成立する時期と消滅時効起算点
履行不能が成立する時期は、言葉どおり、履行することが物理上・事実上不可能になった時点です。
消滅時効起算点(判例)
「債務の履行不能による損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務を訴求できる時から進行するとする」
本来、消滅時効の進行等は民法第166条に規定されており、「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する」とあります。債務の履行不能による損害賠償請求権の消滅時効は本来の債務を訴求できる時から進行を開始するということになります。
履行不能による効果
履行不能に陥ったとき、債権者がとれる自身の救済の方法としては、以下の3つが法的に考えられます。
- 損害賠償
損害賠償の内容は填補賠償である。
>>損害賠償請求の要件・時効 >>損害賠償請求の範囲 - 契約の解除
催告は不要で、契約を解除することができます。 - 代償請求権の発生
履行不能となった原因によって債務者が権利や物を得た場合、それを請求できるという権利のことです。
例)滅失物件の保険金請求権の譲渡など
不完全履行
不完全履行の要件
債務の履行はあったものの履行が不完全なものであること
数量、品質に問題がある場合、または安全配慮義務など付随義務が完全でない場合などです。
>>瑕疵修補請求権と特定物債権の瑕疵担保責任
債務者に帰責事由が認められること
帰責事由とは、故意・過失または「信義則、これと同視すべき事由」 のことです。立証責任は債務者にあります。
違法性が認められること
債務者に同時履行の抗弁権(お互いが履行しなければならない債務を持っていて相手方が履行しないときは自分も履行しなくてよい権利)や留置権がある場合には違法な遅滞ではありません。
不完全履行が成立する時期と消滅時効起算点
不完全履行が成立する時期
履行されたものが不完全であったことが判明した時点です。
消滅時効起算点
「債務の不完全履行による損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務を訴求できる時から進行するとする」
本来、消滅時効の進行等は民法第166条に規定されており、「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する」とあります。債務の不完全履行による損害賠償請求権の消滅時効は本来の債務を訴求できる時から進行を開始するということになります。
不完全履行による効果
不完全履行に陥ったとき、債権者がとれる自身の救済の方法としては、以下のことが法的に考えられます。
- 契約の解除
追完が可能な場合は催告は必要で、追完不能な場合は催告は不要で、契約を解除することができます。
>>契約の解除について - 追完請求権・瑕疵修補請求権
追完請求権とは不完全履行となっていても、追完(完成することができる)可能な場合には、追完請求ができる権利です。
また、引渡しされたものが壊れていた場合に補修費用を請求できる瑕疵修補請求権があります。
>>瑕疵修補請求権と特定物債権の瑕疵担保責任について - 損害賠償
損害賠償の内容は填補賠償です。不完全履行を履行不能や履行遅滞と区別する実益は、積極的債権侵害・拡大損害を賠償責任の範囲に含めることができるところにあります。
金銭債権の特則
民法第419条
- 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
- 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
⇒損害額を立証しなくても、金銭債権ですから利息ともに金額が明確です。 - 第1項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
⇒お金は、常に流通しているもので、調達可能ですから、履行不能になることはなく、金銭債務の不履行は、必ず「履行遅滞」となります。