民法709条、710条
損害賠償請求をできる原因である不法行為については、民法第709条に規定されています。
【民法第709条】
故意又は過失によって、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
【民法第710条】
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
この条文のとおり、不法行為とは、他人の権利や法律上保護される利益を侵害して損害を与える行為のことを不法行為と言います。 そして、不法行為に対しては、精神的損害についても賠償をしなければならないとされています。
社会生活においては、お互いに利益をもたらすこともあれば、損害を与えてしまうような場合もあり得ます。そうした場合、生じた損害をどのように負担するべきかが問題となってきます。損害は加害者側が常にすべて悪いとは限りませんから、損害の負担は公平でなければなりません。つまり、損害を公平に調整しようというのが不法行為制度の目的なのです。
また、不法行為は、大きく一般的なものと特殊(必ずしも故意・過失を要件としない各種の特殊不法行為の制度)なものに分けて考えられます。
一般的な不法行為
不法行為成立の要件
一般的な不法行為として成立するには、次の4つの要件があります。
- 自分の故意または過失による行為に基づくこと
- 他人の権利や利益を違法に侵害したこと
- その行為によって損害が生じたこと
- 加害者に責任能力があること
故意または過失の違い
不法行為の成立要件としては、故意であったとしても過失であったとしてもその結果には違いがないので、故意か過失かはそれほど重要な基準にはなりません。ただし、損害賠償時には、過失相殺の割合や慰謝料請求の算定において考慮はされることになります。
故意または過失の立証責任
故意・過失の立証責任は基本的に被害者側にあります。被害者にとってはとても不利な立場ですが、被害者側が加害者に故意または過失があったことを証明できないと、訴訟上は不利益を受けてしまうことになってしまいます。
(CF.特殊な不法行為のように、自動車事故における損害賠償請求など、被害者の保護を重視し、加害者側で故意または過失がなかったことを証明できない場合には、その責任を免れることができないとする場合があります。)
権利の侵害
権利の侵害と言うのは、「保護に値する他人の利益を違法に侵害したこと」を言います。
つまり、必ずしも、○○権のように権利という名称がついている必要はなく、侵害された利益の種類や性質、侵害行為の状況などの様々な観点からその違法性を判断していくわけです。
なお、権利の侵害は大きく3つに分けて考えるのが一般的です。
- 物に関するもの
他人の所有物を壊したり、その利用を妨げたり奪うなどは権利の侵害に相当します。著作権や商標権などのような知的所有権もこれに該当します。 -
債権に関するもの
金銭貸借や営業権などがこれに該当します。 - 民法710条では、身体・自由・名誉の侵害が不法行為にあたるとしています。プライバシーや肖像権の侵害などがこれに該当します。
特殊な不法行為
一般の不法行為の成立要件とは異なる、特別な成立要件を定めた不法行為があります。ひとつは民法に定められたもの、もうひとつは特別法として定められたものです。
民法に定められた不法行為
責任無能力者の監督者の責任
民法714条に定められていて、責任能力のない未成年者や心神喪失状態の者が起こした加害行為に対しては、監督すべき法定義務を持つ者、例えば、親権者、後見人など、また、監督義務を持つ者に代わって監督する者、例えば、保母さんや教員などが賠償責任を負うことになります。
使用者の責任
民法715条に定めらていて、例えば、会社で雇っている運転手が仕事中に事故を起こした場合などがこれに該当します。この場合、運転手だけでなく、使用者である会社側もその賠償責任を負うことになります。
注文者責任
民法716条に定められていて、通常は、注文者は請負人がその仕事について第三者に損害を与えた場合に、その損害賠償の責任を負わないが、注文や指図に瑕疵があって、請負人が第三者に損害を与えてしまった場合には、その損害賠償を負うというものです。
土地工作者の占有者・所有者の責任
民法717条に定められていて、例えば、エスカレーターの故障が原因で客が怪我をした場合、そのエスカレーターを占有するメーカーが一次的な責任を負い、所有者である百貨店が二次的に賠償責任を問われます。
動物占有者の責任
民法718条に定められていて、例えば、飼い犬に鎖をつなげず、または、つないでいた鎖がはずれてしまって人に危害を与えてしまった場合、その犬の占有者である飼い主が賠償責任を負うことになります。ただし、ペットホテルなどに預けている際に同様の事故が起きた場合には、保管者であるペットホテル側にも賠償責任は発生します。
共同不法行為
民法719条に定められていて、複数人の関与によって、他人に損害を与えた場合、実際には誰が与えたかわからない場合でも、共同で損害を与えたとして損害賠償責任を負います。また、教唆者や幇助者も共同不法行為となります。
特別法として定められた不法行為
社会構造の変化によって次々と新しい加害・被害の構図ができてきます。従来の民法の規定では充分に対応できないものについては、都度特別法が制定され、優先的に適用されることになります。例えば、大気汚染法防止法など公害における被害や製造物責任法、国家賠償法、自動車損害賠償保障法などがこれに該当します。
不法行為の損害賠償請求
不法行為による損害賠償請求が認められるためには、その損害が加害行為によって生じたことが明確である必要があります。なお、損害は財産的損害と精神的損害の大きくふたつに分類されます。
財産的損害
所有物の減失と毀損
所有物を失った時には、その当時の新品との交換価格が損害額となり、毀損の場合には修繕費用が損害として認められます。
利用権の侵害
建物の賃貸などにおける不法占拠、例えば、賃借人が賃貸契約の終了後も不法に住み続けて明け渡しをしないなどの行為に対して、賃料相当額が損害賠償額として認められます。
生命の侵害
交通事故などの事故により死に至った場合、死亡者の逸失利益が損害として認められます。その場合、死亡者がその後何年間働いて収入を得られたかということを基準に、被害者の年齢や職業などを考慮に入れたうえで相応の損害が認められます。
身体傷害
交通事故などの事故により身体に障害を負ってしまった場合、治療費や付添看護費用、治療期間中の休業による収入減、障害によって将来得られたと予測できる収入目安が損害となります。
名誉・信用毀損
営業妨害などによって得られるべき利益を失った場合、損害として認められます。
精神的損害
精神的損害の場合の賠償は、一般的には慰謝料と呼ばれ、精神的な苦しみや苦痛に対する対価と言えます。
身体や自由や名誉などの人格的利益を侵害された場合に認められるものが、一般的に慰謝料と呼ばれるものですが、これ以外に、民法では、財産(不動産や家屋など)が文書偽造や無謀運転などで侵害・毀損された場合に認めています。
ただし、このような場合には明確な算定基準はなく、当事者双方の社会的地位や職業、資産や年齢、そして、加害行為の動機やその後の状況などによって、裁判所が様々な事情を考慮して判断することになります。